この度、再エネ業界のWebプラットフォーム「タイナビシリーズ」を運営するグッドフェローズと、産業用ロボット・インバータ市場で世界的な販売実績を誇り、産業用太陽光発電のパワコン市場で高いシェアを狙う安川電機社との間で対談が実現しました。
対談はグッドフェローズ代表取締役の佐伯(以下、GF佐伯)と、株式会社安川電機の上席執行役員・インバータ事業部長の山田 達哉氏(以下、安川電機 山田)との二名による対談形式のインタビュを行い、自家消費市場・パワコン交換市場に向けた今後の展望などについてお話を伺いました。
1987年九州工業大学電子工学科卒業後、安川電機入社。95年欧州安川電機インバータ事業統括、2008年インバータ事業部技術部長、16年米国安川電機副社長、21年安川電機上席執行役員、環境・社会システム事業部長、22年より現職
海外でMBA取得後にIT業界向けの人材コンサルタントとしてアウトソーシング事業の立ち上げに寄与。その後、外資IT企業向けリクルーティング活動を経て、2009年に高校時代の同級生である長尾を中心にグッドフェローズを3名で設立し、代表取締役副社長に就任する。
GF 佐伯:
安川電機といえば産業用ロボットやインバータ技術で世界的なシェアを持っていることで知られていますが、太陽光発電のパワコン(パワーコンディショナ)事業に参入された背景や、その決断に至った動機についてお聞かせいただけますでしょうか?
安川電機 山田:
当社は1915年に創立しましたが、インバータ事業に焦点を当てると、1970年代から事業展開を続けてきました。2009年になり、新たな事業を開始することになり、当時、いくつかの新しい事業アイデアが浮上していました。具体的には、電気自動車用電機品、風力発電用電機品などがその中に含まれていました。新たな事業を模索するため、複数のプロジェクトが立ち上げられ、いくつかのテーマが検討された結果、太陽光発電用電機品の事業が一つのテーマとして浮上し、試してみるべきだとの意見が高まりました。
太陽光発電用電機品の事業の中で、当社の強みはインバータで培われた制御を活用した電力変換であり、その強みを活かすことで、パワコンというアイデアが生まれました。インバータとパワコンには多くの類似点があり、この分野での強みを最大限に活用し、社会に貢献できると確信しました。
GF 佐伯:
パワコン事業への参入は、今まで培った技術を最大限活用し、社会貢献する点は、安川電機の経営理念「事業の遂行を通じて広く社会の発展、人類の福祉に貢献する」と合致していますね。
安川電機 山田:
はい。当社の社是は技術立社であり、一貫して電動機(モータ)とその応用を大きな柱として事業を拡大してきており、品質、利益、市場志向が重要な価値観です。太陽光発電事業は、技術を活かし、社会への貢献に合致していました。
太陽光事業において最初に手をつけるべき領域としては10kWのパワコンが最適であると判断しました。当社の10kWパワコンは2010年過ぎに市場に導入され、それが始まりとなります。
GF 佐伯:
ありがとうございます。パワコン事業への参入当時、山田さんはどのような役割だったのでしょうか?
安川電機 山田:
2009年に、当プロジェクトのPT(プロジェクトチーム)が発足し、これは新たなビジネスに取り組む試みで、2010年には私がそのビジネス推進を担当することになりました。それ以来、パワコン事業は常に私のそばにあり、そこから離れることはありませんでした。今年ですでに14年目に突入しています。この14年間は、住宅用市場への参入・アメリカの会社を傘下に加えたグローバル展開も行いましたが、いろんな苦労がありました。ただ、バイデン政権の誕生により、インフレ抑制法が成立し、政府が2030年、2035年までの間は必ず補助金を出すと言っており、引き続き税制優遇処置も実施すると約束しているため、アメリカは非常に活気づいています。このため、製品が間に合っていない状況が続いており、先行きが明るくなって来ています。
GF 佐伯:
ありがとうございます。弊社の設立が2009年でしたので、同時期に太陽光業界への参入をお互いに考えていたのは共通点ですね。2012年にFIT制度(全量固定買取制度)がスタートしてから、FIT用の国内主力パワコンメーカとして、10kwクラスのパワコン国内シェア30%超、10万台超の販売実績がありますが、苦労した点はありますか?
安川電機 山田:
FIT制度が導入され、2012年の後半から急速に太陽光発電の市場が広がりました。事業スタート時は、年間わずか10台程度しか売れなかったパワコンが一気に伸びました。この急成長は2013年、2014年と続き、FIT制度スタート当初は競合がほとんど存在しませんでしたが、後半に複数の国内・中国等の海外メーカが参入し、コスト競争が激しくなりました。日本の発電事業者は海外製を使わないだろうと思っていましたが、投資目的の方の多くはコスト意識が強く、海外メーカ等にシェアを取られ始めました。
GF 佐伯:
私も覚えていますが、あるパワコンメーカは今までの市場価格を度外視した安い価格で攻めていましたね。ただ、2023年現在、その当時のパワコンメーカは撤退・生産中止になっていますね。
GF 佐伯:
2023年に自家消費市場向け新製品の25kwパワコン「Enewell-SOL P3A 25kW」(三相200V級)の販売をリリースされましたが、今後の取組みついて教えて頂けますでしょうか?
安川電機 山田:
今、自家消費の需要が増加し、新たなチャンスが訪れている状況です。そのため、新たな産業用製品として25kWのパワコンを導入し、今年、来年と勝負を仕掛けていきます。V字というよりは、U字回復を狙っている感じです。今は、ようやく上がってきそうな気配があります。
GF 佐伯:
弊社も太陽光関連の見積サイトを運営しておりますが、2022年は電気料金が大幅に高騰して、新電力の撤退・倒産のニュースが増え、自家消費ニーズが急激に増えているのは肌で感じております。今後多くの産業用施設には太陽光発電が設置されていきますね。
ちなみに、新製品のパワコン容量が25kw(三相200V級)ですが、この容量の選んだ狙いを教えてもらえますでしょうか?
安川電機 山田:
様々な理由が実はあります。まずは、お客様の声を断続的に収集し、競合他社・海外メーカの情報を集め、当社の優位性をどのように持つか?を深く議論した結果、25kwが最適であると判断しました。
ストリングタイプの200V級で25kwは最大容量かつ、並列で接続すると効果的です。当然、33kwなども検討しましたが、弊社の顧客属性・ターゲットは約500kw規模であることを考え、25kwとなりました。
商品リリース後に、国内の展示会などでもお客様からの肯定的な意見が多かったですし、200kw~500kwの範囲が自家消費市場で一番求められる需要が高いですからね。
GF 佐伯:
確かに、自家消費はそれぐらいの容量が比較的多いですね。つまり、数メガなどの大規模施設ではなく、あくまでも、自家消費ニーズが高い中規模施設(200kw~500kw)を狙っているということですね。
安川電機 山田:
はい。そこに焦点を当てていますので、数メガワット以上の需要に対応するのはやや難しいと考えています。そのような場合、中国製の400V級の製品でトランスを導入したほうが経済的だと思います。したがって、われわれは25kW、200V、 S相接地という国内特有の環境に、トランスを必要としないパワコンを供給することに焦点を絞っています。これは国内メーカの強みですね。
海外メーカは通常、グローバルな製品を作って来ますので、国内特有の200V三相S相接地にはぴったり合わないため、トランスを追加したり、漏れ電流を制御したりする必要があります。一方、われわれの製品はスマートな設置が可能です。
GF 佐伯:
その点で、海外パワコンメーカと大きく差別化されていますね。既存の受電設備(変圧器)に接続でき、逆潮流を防止する自家消費の機能を標準で内蔵され、自家消費の為のパワコン機能を全て持っている製品ですね。
安川電機 山田:
この製品の開発は社内でかなり議論が交わされ、経営トップの承認を得るのは難しい道のりでしたが、地道な説得が実を結び、特定の条件下で製品化が実現しました。グッドフェローズさんにもぜひ販売協力いただけるとうれしいです。
GF 佐伯:
はい、1社でも多くの販売店様に商品の案内をさせていただきます。今回の新製品は負荷追従型の技術が搭載されていると聞いており、発電量が他のパワコンメーカより高いと考えておりますが、如何でしょうか?
安川電機 山田:
具体的な定量レベルでお話する事はできませんが、現在バックデータを取得中です。弊社は今まで蓄積したインバータ技術を活かしてパワコンを開発しており、安川電機の強みはモータ制御、つまり出力調整能力です。モータを制御するということは、パワコンに置き換えると出力を制御することとなります。今回の新製品は自家消費の負荷に適切に追従し、負荷の変動や運転中の負荷に対応させることは、まさに当社のモータ制御技術を活かせる領域であり、他社に負けない強みがあると考えています。
当社はこの制御機能をパワコンに標準内蔵していますが、海外の競合製品は外部コントローラを必要としています。
この制御機能は、最高水準と言っても過言ではない追従制御を実現し、負荷が変動した場合にも素早くパワコンの出力を調整できるため、太陽光パネルの発電を最大限に活用できます。
この特性は、特にPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)の事業者にとって非常に重要です。
PPAモデルは最大容量のパネルを設置し、屋根からの電力を最大限に利用する必要があります。
このようなお客様の要望にも応え、市場に切り込んで行きたいと考えています。
GF 佐伯:
ありがとうございます。発電量の最大化といえば、太陽光パネルの設置容量に目がいきますが、自家消費に限ってはパネルの設置スペースが限られます。つまり、限られた太陽光パネルで発電量を最大化するには、需要家さんの電気使用量の変化(負荷)に追従して、この負荷にしっかり対応できる技術を持つ安川パワコンが有効ですね!
この点は自家消費太陽光を販売する企業に多く伝えていきます。
GF 佐伯:
2012年からスタートした20年間の売電制度(全量固定買取制度)により、日本全国で約50万箇所以上の太陽光発電所があり、2023年~2024年にかけて約12万箇所が売電10年目を過ぎると事で、パワコンの交換需要が大きく増えると予測しております。既に弊社が運用するパワコン交換サイト「タイナビショップ」にも多くのパワコン交換依頼が殺到している状況です。この市場に向けた御社の取組みについてお話頂けますでしょうか?
安川電機 山田:
当社は更新需要向け製品のラインアップを絞り、絶縁型のパワコンに焦点を当てています。この業界は日本のJET認証の更新などが定期的に発生するため、製品の開発を継続し続けなければなりません。したがって、現行製品である絶縁9.9kWのP2HもJET更新までもう少し期間がありますが、更新のタイミングに合わせて交換需要にも対応する新製品を開発しようとしています。今後は、それを主力として更新事業を展開していきたいと考えています。
GF 佐伯:
ありがとうございます。太陽光市場に起きている一番の問題は、過去に設置済みのパワコンメーカの撤退(生産中止・事業縮小)などにより、10年前に設置したパワコンの故障発生時に同一メーカの製品がないという問題が起きており、多くの発電事業者は代替え可能なパワコンメーカに切り替える必要性が出てきております。
弊社もその問題に対応する為に、パワコン交換の見積サイト「タイナビショップ」を立ち上げました。
そういった意味では、御社がパワコン事業を継続していることは社会的にも大きな価値だと考えております。
安川電機 山田:
安川電機は100年以上の歴史を持つ技術会社です。弊社がパワコン事業を継続できるのは、インバータ事業での技術を活かしている点が他のメーカとの違いですね。もし、パワコンを売るための事業しかやっていなければ、開発・価格競争の中で事業の継続が難しかったでしょう。実際に、他の事業がパワコン事業を支えてくれていたことも事実です。率直に言えば、利益が出ていなくても、我慢強く見守っていただいたおかげで、優れた製品を生み出すことができました。これからも精力的に取り組んでいく予定です。
GF 佐伯:
一般のお客様に対し、他のメーカから安川電機のパワコンに切り替えるメリットとして、今これだけは伝えてきたいといったアピールポイントがあれば教えてください。
安川電機 山田:
まず、お客様本位といったことを大切にしています。製品が良いということは当然のことですが、これまで私たちは製品の性能から入って、技術的な訴求を中心に行ってきました。その上で、お客様が直面する課題にしっかりとアプローチし、お客様を決して見捨てないといった姿勢を持っています。これは営業活動においても重要な要素で、信頼性を大切にしています。パワコン性能だけでも当社の強みを十分にアピールできると思いますが、お客様に対する会社としての姿勢が大事だと考えています。ただ、個人には安川電機がまだあまり知られていないということもあり、安川電機のパワコンについては、依然として多くの人には認知されていないと感じます。この課題については、グッドフェローズさんと連携することで、知名度を高めていきたいと思っています。
GF 佐伯:
ありがとうございます。御社の営業の方・技術の方とお会いする機会がありますが、案件の大小にも関わらず、いつもお客様本位にたって、提案先の現場や発電所設置場所へ同行して頂き、いつも感謝を感じております。
安川電機 山田:
国内のパワコンメーカの多くが、激しいコスト競争により持続的な利益を上げる事が出来ずに撤退する状況になっていますが、安川電機は中国メーカを徹底的にベンチマークし、コスト削減に取り組み、市場価格に追従して事業継続可能なレベルまで引き上げることに成功しております。これにより、安川電機は今後もこの業界で事業を継続していけると確信しています。
GF 佐伯:
本日は、自家消費市場・パワコン交換市場について御社の取組みを詳しく教えて頂きましてありがとうございました。
自家消費・パワコン市場を啓蒙しつつ、1人でも多くの方に御社の事を伝えていきます。
撮影場所(2023年・安川電機本社前にて)